札幌地方裁判所 平成2年(わ)567号 判決 1990年11月30日
本店所在地
北海道苫小牧市末広町三丁目八番一六号
三陽木材株式会社
(右代表者代表取締役 坂本通)
本籍
北海道苫小牧市三光町三丁目一一番
住居
同市同町三丁目一一番二四号
会社役員
坂本通
昭和八年三月三〇日生
右両名に対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官髙木俊則出席の上審理して、次のとおり判決する。
主文
被告人三陽木材株式会社を罰金一八〇〇万円に、被告人坂本通を懲役一年二月にそれぞれ処する。
被告人坂本通に対し、この裁判の確定した日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人三陽木材株式会社は、肩書地に本店を置き、木材の仕入及び販売等を目的とする資本金三〇〇〇万円の株式会社であり、被告人坂本通は被告人会社の代表取締役としてその業務全般を統括しているものであるが、被告人坂本通は、被告人会社の業務に関し法人税を免れようと企て、架空の仕入を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、
第一 昭和六〇年一〇月一日から同六一年九月三〇日までの事業年度における同会社の実際所得金額が一億八〇七〇万八三九一円であり、これに対する法人税額が七六四三万九九〇〇円であるにもかかわらず、同六一年一一月二九日、苫小牧市旭町三丁目四番一七号所在の所轄苫小牧税務署において、同税務署長に対し、所得金額が八二二二万七〇八九円であり、これに対する法人税額が三三八〇万六一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同年一一月三〇日を徒過させ、もつて、不正の方法により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告額との差額四二六三万三八〇〇円を免れ、
第二 昭和六一年一〇月一日から同六二年九月三〇日までの事業年度における実際所得金額が二億四一七八万八七五八円であり、これに対する法人税額が九九四七万七三〇〇円であるにもかかわらず、同六二年一一月二七日、前記苫小牧税務署において、同税務署長に対し、所得金額が一億三二四八万六四五円であり、これに対する法人税額が五三五七万二四〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限である同年一一月三〇日を徒過させ、もつて、不正の方法により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額と右申告額との差額四五九〇万四九〇〇円を免れ
たものである。
(証拠の標目)
一 被告人坂本通の当公判廷における供述
一 被告人坂本通の検察官に対する供述調書二通
一 花輪勝弘、中田暁洋、斉藤明夫、笹野吉彦(三通)、上杉忠次(四通、うち三通は謄本)及び中川嘉行(謄本)の検察官に対する各供述調書
一 大蔵事務官作成の調査書二四通(甲一ないし二四)
一 大蔵事務官作成の脱税額計算書
一 登記官作成の登記簿謄本
一 押収してある法人税決議書綴一冊(平成二年押第一六九号の一)
(法令の適用)
被告人両名の判示各所為は、各事業年度毎に法人税法一五九条一項(被告人会社については、さらに同法一六四条一項)にそれぞれ該当するところ、被告人会社については情状により同法一五九条二項を適用し、被告人坂本にについては各所定刑中いずれも懲役刑を選択し、以上はいずれも刑法四五条前段の併合罪であるから、被告人会社については同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金一八〇〇万円に、被告人坂本については同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年二月にそれぞれ処し、被告人坂本に対しては情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間、右刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
本件は、木材の仕入及び販売等を目的とする株式会社である被告人会社の代表取締役である被告人坂本が、同会社の業績が良くなつてきたことから、木材業界は好不況の波が激しいため経営の安定化を図るとともに正規に認められた分以上の交際費を捻出したりするために、架空の仕入を計上するなどして同会社の利益を隠匿し、二期分合計約八八五〇万円の法人税を免れたという事案であつて、ほ脱率も平均約五〇パーセントに達しており、その犯行態様も、取引先(丸上株式会社三協)と共謀の上各種の取引書類をねつ造するなどして架空の仕入を計上したりアメリカからの輸入木材の一部を検収の際に除外して帳簿外の在庫とするなどといつた計画的かつ悪質なものであり、その動機についても特に酌量すべきものも存せず、これらの各事実からすると、被告人らの刑事責任は軽視し難いものといわなければならない。
しかしながら他方、被告人会社においては、本件発覚後は修正申告の上本税、重加算税等を既に全額納税しており、今後このようなことがないように社内の監査体制を改善するなどしていること、また本件犯行にあたつては前記丸上株式会社三協からの要求により多額のいわゆる脱税協力金を同社に支払つていたものであつて、こういつたことから本件により得た実質的な利益は脱税額に比してかなり少なかつたものと解されること、本件により相当の社会的・経済的制裁を受けていること、被告人坂本においては他の役員らとともに積極的に本件捜査に協力するなどして反省改悛の情を示しており今後二度とこのような脱税行為に及んだりしないことを誓つていること、同人には前科前歴はないことなど被告人らに有利な事情も存するので、これら一切の事情を総合勘案した結果、主文のとおり量刑した。
よつて、主文のとおり判決する。
(求刑 被告人会社につき罰金二五〇〇万円、被告人坂本につき懲役一年二月)
(裁判官 吉村正)